カンカン照りの昼下がり、僕はバス停の点字ブロックの上に立っていた。
暑いというよりも熱いという感覚で真夏の太陽を感じていた。
首筋から汗が流れていた。
時刻表を見れない僕は早くバスが到着してくれればと願いながら立っていた。
わずかの時間の流れかもしれないのに長い時間が過ぎたように感じていた。
ハンカチで拭いても拭いても汗は流れた。
「こちらに来たらましですよ。」
突然おじいさんが僕の腕をつかんでゆっくりと引っ張った。
数歩動いた場所にバス停の屋根の日陰があった。
日なたとは比較にならないほど涼しく感じた。
気温も数度は低いのだろう。
日なたでは感じなかった微風にも気づいた。
僕がバス停に着いてからの数分間、何も音は聞こえなかった。
だから、僕以外にバス停に人がいるのかさえも判らなかった。
おじいさんが声をかけようと思ってから実際にかけるまで数分間を要したということ
になるのかもしれない。
見るに見かねて声をかけてくださったのかもしれない。
「この暑さはたまりませんなぁ。」
日陰で並んだ僕におっしゃった。
「うれしいです。ありがとうございます。」
僕が答えた後、返事はなかった。
それはそうだろう、会話としては成り立ってはいない。
それからまた、しばらくのバス待ちの時間が流れた。
「バスが来ましたよ。先に乗ってください。」
おじいさんはおっしゃった。
その口調から僕の気持ちが通じていたのが判った。
「ありがとうございます。」
僕は再度お礼を言っていい気分でバスに乗車した。
光が確認できない僕の目は陰を見つけることはできない。
でもやさしさを見つけるのは見えていた頃よりはるかに上手になった。
幸せ探しが上手になったのかもしれない。
(8月13日)