聴覚障害

京都市盲ろう向け通訳者養成講座にお招きを受けた。
昨年に引き続いてのことだ。
「視覚障害の理解」というのが僕の担当科目だった。
主催者側にも受講生にも聴覚障害の方がおられた。
補聴器の方もおられたし、手話通訳者の通訳で学んでいる方もおられた。
僕はいつもより少しボリュームをあげゆっくりと話をした。
いつものことだけどそんなに難しい話はできない。
自分の体験も交えながら精一杯話をした。
僕の目の前はいつものようにグレー一色の状態、いつもより静かな会場、
不思議な空間だった。
最後に少し質問タイムがあった。
聴覚障害のある女性からの質問だった。
彼女の言葉は慣れない僕にはよく判らなかった。
手話通訳士の方が僕に内容を伝えた。
「駅のホームで落ちそうになっている視覚障害者と出会ったら、
突然腕をつかまえてもいいですか?」
当たり前のことだけど、言葉で伝えることは苦手でも彼女の手は普通に動くのだ。
自分にもできることをしたいという彼女の思いが感じられた。
それに反応したかのように、
「私も助けたい。」
今度は一般の方が発言された。
お二人には聴覚障害がある人とない人という違いはあった。
でもそれは関係なかった。
人間としてのきらめきは同じだった。
素敵だと思った。
僕はお二人に感謝を伝えて講座を締めくくった。
最後に司会の難聴の男性と握手をした。
僕達はそれぞれの人生をほんの一瞬振り返った。
そして笑った。
(2017年7月19日)