ドット

僕は桂駅からの最終バスによく乗車する。
これに乗り遅れるとタクシー代1,500円が吹っ飛んでいく。
見えない僕が慌てるのは危険だからと自分に言い聞かせてはいるが、
そんなにしょっちゅう乗るわけにもいかない。
僕と同じような気持ちの人が最終バスに駆け込んでくる。
そして途中で一人、二人と降りていかれる。
僕が降りるバス停は終点の二つ前だから、
いつも最後の数人の乗客の1人ということになる。
僕だけということもたまにはある。
京都のバス停にはだいたいテンジブロックが敷設されている。
バスは後方のドアから乗車するようになっていて、
運転手さんはそこをテンジブロックに合わせて停車してくださる。
僕の頭の中の地図はこの点字ブロックがスタート地点になっているので、
それがキャッチできないと帰る方向が判らない。
だからいつも降車してから白杖で点字ブロックを探すということをする。
アバウトの方向で動くのだから見つけるのに少し時間がかかることもある。
直接団地の入口に向かわないのだから見た目には少し変な動きだろう。
今夜も僕は最後の乗客だった。
バスが停車してから降車ドアに向かった。
「ドットに着けましたからね。今日もお疲れさまでした。」
運転手さんの言葉と、
僕のありがとうございますの言葉が交差した。
僕は意味が判らなかったのだけれどとにかくいつものようにバスを降りた。
降りた一歩目の足の裏でドットが微笑んだ。
点字ブロックのことだったのだ。
運転手さんはいつもの僕の動きをご存知だったのだろう。
僕は振り返って深くお辞儀をした。
空っぽのバスが終点に向かって走り出した。
僕は走り去るバスに向かって声を出した。
「今日もお疲れさまでした。ありがとうございました。」
言い終わってから目頭が熱くなった。
僕はすがすがしい気持ちで白杖をしっかりと握り直して家路についた。
(2017年9月28日)