迷子

京都駅から歩いて15分の距離にある高校、
一年に5日間だけ僕の授業がある。
その日は地下鉄京都駅北改札口で高校の関係者と待ち合わせをする。
自宅を出てバス、阪急電車、市営地下鉄と乗り継いで京都駅まで行く。
このルートは慣れているので基本的には問題はない。
基本的というのは日によって時間帯によって、あるいは僕の体調によって微妙に大変
さは変化するということだ。
とにかく単独で行けるし自信もある。
その待ち合わせ場所から高校まではだいたいの方向しか判っていない。
ただ地下道を歩いて一番北の出口から地上に出る100メートルくらいはなんとかなり
そうだと思っていた。
今朝思い切ってトライした。
失敗した。
最後の階段を上って地上に出たらまったく違う場所だった。
自分の居場所を確認しようと階段の手すりを触ったけれども点字表記はなかった。
後戻りしようと試みたがどちらの方向から歩いてきたかも判らなかった。
完全な迷子状態になってしまった。
携帯電話で高校に電話したけれど自分の居場所を説明できずに困ってしまった。
通行人にお願いするしかない状況になったが人通りはまばらだった。
やっと人の気配がしたので声を出したが足音は通り過ぎた。
それが数回続いた。
授業開始の時刻はどんどん迫っていた。
何人目だっただろうか、やっと若い女性が立ち止まってくださった。
視覚障害者とのコミュニケーションはきっと初めてだったのだろう。
僕はゆっくりと説明をしてそれから駅の通路までのサポートをお願いした。
慣れたサポートではなかったけれど、僕にしたら天使みたいなものだった。
僕は心からの御礼を伝えた。
間もなく高校の関係者と合流して授業開始の数分前に学校に到着した。
セーフだった。
午後の大学の講義もいつものように無事終了して帰宅した。
でも夜になっても口惜しさは消えなかった。
たったあれだけの距離で迷ってしまったことが情けなかった。
自分の歩行能力の未熟さを思い知らされたような感じだった。
どうやっても口惜しさから逃れられそうにないので今年中にもう一度挑戦することに
決めた。
そう決めたら決められた自分がうれしくなった。
まだまだ修行しなくっちゃ。
(2017年12月2日)