ナンキンハゼ

「ナンキンハゼの葉もほとんど散りましたね。」
バス停で出会った年配の男性は初冬の風景を僕に話してくださった。
僕は一人で立っている時、空を眺めていることが多い。
気が付くとそっと空を眺めている自分がいる。
無意識でやってしまっているようだ。
空を見たいと思っている僕がいるのかもしれない。
男性はその姿に気づいてくださったのだろう。
青空に映えていた真っ赤な葉はなくなって裸の枝になってきているとのことだった。
僕はなんとなく赤い色を思い出した。
そして少しうれしくなった。
でもナンキンハゼの木は判らなかった。
僕が知っている木はとても少ない。
松、杉、桜、梅、銀杏・・・。
木や花の名前を教えてもらいながら自分の無知が恥ずかしくなる。
見えている頃、もっと憶えておけば良かった。
その度に後悔する。
見えなくなると自覚した頃僕は何をしていたのだろう。
最後の画像と積極的に関わるということはできなかった。
うろたえながら恐れながら画像は遠のいていった。
先日友人から頂いた手紙にはナンキンハゼの枯葉が貼ってあった。
僕はそれを指先でそっと触った。
幾度も触った。
画像に結びつくことはないのだけれど、
晩秋がそっと指先でつぶやいた。
幸せな気持ちになった。
(2017年12月7日)