紫陽花

僕達はそれぞれに、ボランティアさんに手引きしてもらいながら歩いていた。
紫陽花が咲いていると、一人のボランティアさんが教えてくれた。
僕達は立ち止まり、紫陽花をそっと触った。
ほんのりと青い色と聞いて、
僕はそれを想像した。
子供の頃からの全盲の友人は、
もちろん、紫陽花の画像の記憶はない。
ほんのりとした青い色を思い浮かべることはできない。
僕は見えている頃、見えないということは悲しくて不幸なことだと思っていた。
「長靴をはいてみたくなるね。」
紫陽花を触りながら、彼は笑った。
思い出の中に、雨があるのだろう。
見たことがあるとかないとか、
聞いたことがあるとかないとか、
行ったことがあるとかないとか、
実はそれはささいなことなのだ。
それを心に留められるのか、
その心を持てるのか、
その方がずっと大切なことなのだ。
「でんでん虫、触ったことある?」
唐突に尋ねた僕に、
「あるある、気持ち悪いよね。
エスカルゴはあの仲間だと聞いてから、僕は食べられないんだ。」
彼がまた笑った。
僕は、僕と同じなのに驚いて、
僕も同じだよと言いかけた言葉を飲み込んで、
「あんなうまいもん食べないの?
見ただけで、ヨダレが落ちそうになるんだけどね。
最高においしいのに、残念やなぁ。」
とニヤリと笑った。
(2014年6月26日)