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いつものように桂駅の改札口をカードで入り、
梅田方面行きのホームに向かった。
長岡京市で開催される朗読ボランティア養成講座での講演に向かうためだ。
電車に乗り込むと、
いつものように乗降口近くの手すりを握った。
空いている座席を見つけられない僕にとっては、
それがいつもの行動だ。
立っているのは不安定で危険なので、
とにかく手すりやつり革を握るようにしている。
手すりを握ってすぐに、端っこに座っておられた乗客が声をかけてくださった。
「座りませんか?」
やさしい声だった。
最初から座ることをあきらめている僕にとっては、
それは思いもかけないプレゼントみたいなものだ。
うれしさのあまり、違う方向を向いて座ろうとしてしまったが、
それくらいは盲人の愛嬌というやつだ。
方向を修正して、隣同士に座った彼女と会話を少し。
同じ駅で降りることが判った。
僕はすかさず、駅の近くのマクドナルドまでの案内もお願いした。
彼女は快く引き受けてくださった。
自転車が止まっていて歩きにくいからと、
マクドナルドの中まで案内してくださった。
「貴女に出会わなかったら、僕は駅の入口で立ったままで時間調整したでしょう。
本当にありがとうございました。」
僕は感謝を伝えて彼女と別れ、
ゆっくりとコーヒータイムを楽しんだ。
それから、迎えの人と講演会場に向かった。
会場は朗読の研修の最中だった。
そこには、先生と受講生の真剣な姿があった。
朗読の練習の声を聞きながら、
こういう人達のお蔭で僕達の読書環境などが保障されてりうんだなと思うと、
自然に感謝の気持ちが湧き出てきた。
講演ではもちろん、僕は心をこめて話をした。
帰り際に、受講生が声をかけてくださった。
「良かったです。」
短い言葉だったが、その声や音の響きで、気持ちが伝わってきた。
うれしさをポケットに入れての帰り道、
いつもの桂駅で迷子になった。
よく利用している河原町方面からの到着ではなくて、
梅田方面からの到着だったので、
頭の中の地図をさかさまにする作業がうまくいかなかったのだ。
「松永さん、一緒に行きましょうか。」
大学生くらいの女性の声だった。
「名前を呼ぶということは、どこかの小学校で出会ったのですか?」
「その通りです。」
彼女は笑った。
改札口を出て、点字ブロックまでサポートしてもらった。
「また、声をかけますね。」
「ありがとう。」
僕は感謝を伝えて彼女と別れた。
やさしい人間の声、僕の人生を幸せにしてくれている。
男性、女性、大人、子供無関係に、
人間のやさしい声は誰かをつつむ力があるのだ。
(2014年7月8日)