美しい言葉

品川から乗車した新幹線の僕の座席は、
3列席の通路側だった。
窓側2列は空席であるとサポーターが教えてくれた。
サポーターの座席は通路をはさんだ反対側だった。
僕は着席すると、愛用の大きなリュックサックを足元に置いた。
新横浜から乗車してきたお嬢さんが、
「すみません。」と声を出された。
僕の奥の座席の方で、
リュックサックを動かして通れるようにしてとのメッセージだとすぐに判った。
「すみません。」
僕はリュックサックを膝に乗せて、
彼女が座席に着くのを微かな音と雰囲気で確認した。
そしてしばらくして、
「僕は目が見えないので、通る際は教えてください。」とお願いした。
返ってきた彼女の返事はあたたかな響きだった。
それからしばらくして、
パソコンで仕事をするために
僕は前の座席の背もたれについているテーブルをセットしようとした。
手探りでうまくいかない僕に気づくと、
彼女はさりげなく手伝って、
「何か困ったら言ってくださいね。」と付け加えた。
僕は感謝を伝えた。
そして、ありがとうカードをそっと差し出した。
「ありがとうございます。」
今度は彼女は微笑んだ。
新幹線が京都に着いて席をたつ時に、
「おおきに。」
僕は再度お礼を伝えた。
「お気をつけて。」
彼女はまた微笑んだ。
新横浜から京都まで、交わした言葉はそれだけだった。
一期一会と言うほどでもないかもしれないが、
織りなす日本語の美しさに心が和んだ。
(2014年10月28日)