気配

阪急大宮駅には特急は停車しない。
だから、桂駅からは普通か準急を利用している。
朝のラッシュウアワー以外の時間帯では、
ホームへの階段を降りたら進行方向右側が特急のホーム、
それ以外は左側となっていると理解している。
僕はいつものようにホームを点字ブロック沿いに左側に歩いた。
しばらくして電車到着のアナウンスが流れた。
ところが、電車は普通電車なのに右側に停車したのだ。
ダイヤ改正でもあったのかもしれない。
僕は慌てて、そして慎重にホームの反対側に移動を始めた。
その方向には点字ブロックはないのだから、
白杖、触覚、聴覚での移動だ。
しかもドアが閉まるまでのわずかな時間、
結局失敗した。
たまたま途中にあったベンチにとおせんぼされてしまったのだ。
発車してしまった電車の音を聞きながらほんのちょっと気分がへこむ。
目が見えればホームに掲示されている電光掲示板で判るだろう。
もし間違っても、気づいた時点で反対側に動けばいい。
普通に歩けば、たった十数歩、何の問題もないだろう。
次の電車までの10分程度を口惜しさの中で過ごした。
ホームに着いて20分くらいが過ぎたことになる。
気分も疲れた。
やがて、次の準急電車が左側に停車した。
僕は乗車するといつものように入口の手すりを握って立った。
その瞬間、僕が立ったすぐ横の座席に座っていた人が、
僕の肩をポンポンと二度たたいて立ち去った。
言葉は一切なかったが、
席を譲ってくださったのは明らかだった。
僕は立ち去る気配に向かって、
「ありがとうございます。助かります。」
感謝を伝えて座席に座った。
気配に性別はない。
年齢もない。
国籍もない。
政治も宗教もない。
あるのは人間のやさしさだけだ。
久しぶりに座れたなとつくづく思いながら、
気配に感謝した。
そして、幸せな気持ちになった。
(2014年12月11日)