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引っ越し

父が亡くなり、残された母の近くで暮らしたいと考えた。
この近くというのは、僕がすぐにかけつけることができるくらいの近さだ。
元々同じ洛西ニュータウン内の団地で暮らしていたのだが、
僕が単独で行くには、親の団地は少し難しい場所にあった。
そこで、僕も母も引っ越しすることを決めた。
探せばあるもので、
洛西ニュータウン内の団地の同じフロアに、
2軒の空き家があった。
しかもエレベーター付だったのですぐに契約した。
両方の引っ越しが終わり10日が過ぎた。
以前の団地は見えている頃から住んでいて、風景という記憶があった。
家の中も、見えている頃の記憶が基本にあった。
今度の場所は近くを通ったことはあるのだが、風景の記憶はない。
建物の作り、部屋の配置、すべてが初めての場所だ。
慣れるということがこんなに難しいとは、予想以上だった。
目が覚めて、洗面はどちらの方角なのか考える。
洗面所にたどり着いて、水道の蛇口を探す。
歯ブラシの位置、タオルの場所、すべてが触覚での記憶だ。
記憶を重ねながら頭の中に地図を作っていく。
ひとつ間違うと、その地図が混乱する。
消しゴムで消してまたやり直す。
それを繰り返しながら、自信が芽生えてくるのだろう。
我ながら途方もない作業だ。
そしてその場所から外出するということ、至難の業だ。
白杖一本を頼りに歩く。
砂漠の中を方位磁石だけで歩くってこんな感じだろうか。
連日の特訓でなんとかバス停まで行けるようになった。
社会に参加したいという執念以外の何物でもない。
白杖の先にはきっと、僕の未来がある。
きっとある。
そう信じているから、努力嫌いの僕がチャレンジしていけるのだろう。
来年の年の瀬、鼻歌でも歌いながら歩いていますように!
(2014年12月28日)