まだおっちゃんのつもり

エレベーターは階段やエスカレーターなどのような段差はないので乗るのは簡単なの
だけれど、
ドアの開閉のタイミングや他の人との距離感には気を使う。
白杖で前方を防御しながらゆっくり動くのがコツだ。
今日も電車の乗り換えのために駅にあるエレベーターを待っていた。
僕以外にも数人の方が待っておられる雰囲気だった。
お母さんに連れられた幼い子供の笑い声も聞こえていた。
子供の笑い声は不思議なものでなんとなくその辺りの空気を柔らかくしていた。
エレベーターが到着してドアが開く音がした。
降りてこられた人達の気配がなくなったタイミングで、
「どうぞ乗ってください。」
若い女性の声がした。
「ありがとうございます。」
僕は安心して喜んで乗った。
たった数秒の個室の中でさっきの幼い子供の声がした。
「ママはおじいちゃんとおともだちなの?」
僕に声をかけてくださった若い女性が幼い子供のお母さんだったようだ。
お母さんは何も返事をしなかった。
エレベーターがホーム階に着いてドアが開いた。
一足先に降りた僕の後ろでお母さんが子供に話す声が聞こえた。
「おっちゃんはね、おメメが悪いのよ。だからどうぞって教えてあげたのよ。
白い杖はおメメが悪いってしるしなの。」
おじいちゃんはおっちゃんに訂正されていた。
ちょっと安心して歩き出した僕に、
とどめの言葉が追いかけてきた。
「ふうん、おメメが悪いおじいちゃんなのかぁ。」
幼い子供には僕が気になった部分は伝わらなかったらしい。
素敵な親子でした。
100点満点と言いたいところだけど、
90点にしておきます。
おじいちゃんにはもうちょっと時間があると確信している僕のプライドです。
でも、子供って正直って言うからなぁ。
これが続くようになったら無駄な抵抗はやめてあきらめることにします。
(2015年5月13日)