知る機会

午前中地元の小学校で開催されたPTA役員の人権研修での講演を終えて、
急いで午後の小学校へ向かった。
予定通り移動できれば、何とかおにぎりを頬張るくらいの時間はありそうだった。
バスが桂駅に到着してすぐに、
女性の方が声をかけてくださった。
急いでいる時のサポートの声は特に有難い。
しかも電車での行先も同じ方向だった。
単独で動くのと比べれば半分の時間での移動だろう。
そして空いてる席に座ることもできた。
特急電車での車中、時間にして5分くらいだろうか、僕達はいろいろな話をした。
ついさっきまでの赤の他人が友達同士みたいに話をしていた。
「街で白杖の人を見かけた時に、
いつどのタイミングでどのように声をかければいいか戸惑うんですよね。」
彼女の素直な気持ちだった。
「僕が見えている頃、僕には白杖の人などに声をかける勇気がありませんでした。
でもこうして見えなくなって、サポートの声はとってもうれしいですよ。」
僕も正直に答えた。
烏丸駅で彼女と別れてから地下鉄と近鉄を乗り継いで小学校へ向かった。
予定より早く動けたのでおにぎりもゆっくり食べることができた。
45分の授業を2時限することで、
子供達に僕達のことをしっかりと伝えなければいけない。
僕の使命だと思っている。
だからつい一生懸命になっている自分がいる。
いや一生懸命にならなくちゃ伝わらない。
45分の最初の授業が終わって休憩している間にもたくさんの子供達が僕の周囲に集ま
った。
僕の時計を見せて欲しい、点字を読んで欲しい、白杖を持たせて欲しい。
いろいろな注文に応じていた時、
耳元で一人の少女がささやいた。
「風になってくださいを読みました。感動しました。」
僕は少女とそっと握手した。
子供の頃に正しく知る機会があれば、
さきほどの女性のように戸惑う人は少なくなり、
声をかけてくださる人も増えるだろう。
そして何より、いろんな人間とコミュニケーションをとれれば、
声をかけた人もかけられた人も人生そのものが豊かになるような気がする。
(2015年9月3日)