母校

母校の佛教大学での講演だった。
社会福祉を学ぶ学生達に僕自身の学生時代の思い出も絡めながら話をした。
一人一人の学生達の人生に語りかけようとしている僕がいた。
後輩というだけで学生達に親近感を覚えた。
気が遠くなるような時間が流れたはずなのに、
キャンパスのあちこちに思い出のかけらが落ちていた。
僕が在学していた当時と比べればきっと風景は一変しているのだろうが、
画像の変化を確認できないということが幸いしている感じだった。
あの頃、ジーパンのポケットにはいつも文庫本があった。
適当な場所を探して座り込んでは時間が経つのを忘れて読みふけった。
乾いたのどが水を求めていたような感じで読んでいた。
そして読むことに少し疲れたら、
校舎の間から見える空を眺めた。
ぼんやりとただ眺めていた。
そんなことを思い出して空を眺めたら、
37年前と同じ色の空があった。
懐かしいという感覚よりも愛おしいという気持ちが大きかった。
ちょっとだけ夢見た立身出世とは縁がなかったけれど、
僕なりに頑張って生きてきたことに満足はしているのだろう。
いやお金や地位よりももっと素敵なものがあることに気づいたのかもしれない。
負け惜しみかな。
文庫本の活字は読めなくなってしまったけれど、
大切なことをポケットに感じながら僕は僕の残りの人生を生きていきたい。
(2016年6月14日)