竹林の風

大学時代の友人と再会して一緒に歩いた。
大徳寺の境内のでこぼこの石畳の上を歩いた。
蝉しぐれの中を汗をかきながら歩いた。
目が見えなくなっている僕は彼女の肘を持たせてもらって歩いた。
35年前も幾度か一緒に歩いたけれど、
その頃は見えていたのでその必要はなかった。
だから彼女のサポートで歩くのは初めてということになる。
初めてのはずなのに僕達は何の問題もなく歩いた。
学生時代の思い出を語りながら笑いながら歩いた。
彼女はガイドヘルプの専門家でもないし経験が豊富なわけでもない。
それなのに僕達はスイスイと歩いた。
竹林の陰に座れる場所を見つけた彼女は僕をそこに誘導した。
ハンカチを敷いて僕をそこに座らせた。
それから汗を拭くようにと冷却シートを手渡した。
僕が汗を拭いている間に、
凍らせてきたというスポーツドリンクをコップに準備していた。
セピア色の記憶が少しずつ色を取り戻していった。
ドリンクを飲み干してコップを返す時には、
はにかんで笑う澄んだ目の彼女の顔がそこにあった。
大学時代の顔だった。
見えない僕と彼女とどちらが得をしているのだろう。
どっちもかな。
「私、100歳まで生きるつもりなの。」
彼女がつぶやいた時、ささやかな風が竹林を通り抜けた。
ささやかに生きてこれたこと、ささやかに今を生きていること、
それが幸せだということを35年前には知らなかった。
僕も100歳まで生きたいなと思った。
(8月5日)