女子高生

早朝の道は行き交う人も誰もいなかった。
時間の余裕を持って家を出たから気持ちのゆとりもあった。
僕は家からバス停までの道をゆっくりと歩いた。
心の中で歌を口ずさみながら歩いた。
時々そんな感じで歩いている。
決まった歌があるわけではない。
青春時代に出会った歌がほとんどだ。
いい気分で歌っているのだが、手だけはいつも頑張って仕事をしている。
白杖を左右に動かし前方の安全を確認しながら、
同時に路面からの情報をキャッチしてくれている。
休むことなく怠ることなく白杖を動かしている。
小さな段差があったり道に物が置いてあったりするし、
目的のバス停も点字ブロックで確認している。
いつも頑張ってくれている手をうれしく思う。
ただ手袋をすると白杖からの伝わり方は弱くなる。
冬は失敗がちょっと多いかもしれない。
「そこです。」
突然小さな声がした。
どうやらバス停の点字ブロックに気づかずに通り過ぎようとしたらしい。
立ち止まって再確認したら確かに点字ブロックがあった。
「ありがとうございます。助かりました。」
僕の声に彼女の朝の挨拶が重なった。
「おはようございます。」
尋ねてみたら女子高校生だった。
小学校の時に僕と出会ったらしい。
「声をかけるって勇気がいるよね。」
「自然に声が出てしまいました。」
彼女は笑った。
冷たい空気の中の彼女がキラキラと輝いていた。
やがてバスが来て乗車した。
僕は座席に座ってまたさきほどの歌の続きを口ずさんでいた。
僕にも高校生の頃があったなと懐かしく思えた。
(2017年2月8日)