さりげなく

鹿児島では一週間で合計一万歩も歩かなかったが、
帰京後初日の今日は一日で一万歩を越えた。
8時過ぎには自宅を出て、バスや電車を乗り継いで福祉の専門学校に向かった。
午前中の講義を済ませて京都駅へ移動した。
昼食をとりながら関係者と打ち合わせをした。
午後は大学の授業の一環で施設見学に向かった。
終了後は学生達と一緒に食事をした。
河原町に着いたら19時だった。
さすがに草臥れていた。
同じ方向に帰る学生と一緒に電車に乗った。
彼女は空いている席を見つけて僕を座らせた。
「横に座ります。」
僕が安心するように自分の居場所を伝えながら横に座った。
先生と生徒という関係、当たり障りのない会話をした。
桂駅に着くと彼女はわざわざ電車を降りて僕を手引きしながらホームを移動した。
ホームから落ちることのない階段の上り口に着くと
「失礼します。」
それだけを言い残して帰っていった。
彼女は再度電車に乗り、そこからの1時間を立ったまま過ごさなくてはいけない。
一駅くらいならまだしも終点近くまでの長い時間だ。
僕のサポートをしなかったら座ったまま帰れるのだ。
電車の中で別れても不自然ではないのに彼女はそうはしなかった。
さりげなくそうはしなかった。
彼女と別れてから1人でバスターミナルに向かって歩いた。
いつものように点字ブロックを白杖で確認しながら歩いた。
いつものように画像のない道を歩いた。
身体は疲れているはずなのに心は軽かった。
スキップで帰りたいような気分だった。
こんな学生達と出会えるということも僕の幸せのひとつかもしれない。
(2017年7月7日)