新米

子供達に点字を教えて欲しいとの依頼があった。
学校関係の依頼は講演が圧倒的に多いのだが、
時々点字体験とか手引き体験というのもあるのだ。
僕自身の点字力は実は高くない。
指で点字を読むというのは日常どれだけ使いこなしているかが重要だ。
日常の記録をパソコンに頼っている僕はなかなか点字を読む機会がない。
エレベーターの数字、階段の手すり、会議の書類くらいが普段の点字だろう。
子供の頃から点字を使っている視覚障害者の先輩は、
僕の5倍くらいのスピードで書類を読んでいかれる。
指先に目がついているようなものだ。
いつも凄いなと尊敬してしまう。
点字を学び始めた時、努力すればどんどん上達すると先生に教えられたが、
先生は努力嫌いを治す方法は教えてくださらなかった。
その結果が現状となっている。
それでもこうして一応生活は成り立っているからいいにしよう。
その程度の点字力だけど小学生に教えるくらいはできる。
いや一応、高校でも大学でも教えていることになっている。
教え方は経験が豊富ということだろう。
小学校での点字は楽しんでやっている。
1人ひとりの書いた氏名を指先で読むと子供達は驚きながら喜んでくれる。
その瞬間、それが見えない人の文字だということを実感してくれるのだろう。
大切なひとときだ。
氏名が書けた子供に次の課題を出した。
「秋」で思い出すものを点字で書くというものだった。
「もみじ」、「まつたけ」、「くり」、「こうよう」、「さんま」。
いろいろな秋が並んだ。
授業の終り近くに持ってきた子はおとなしくて小さな声だった。
僕は男の子か女の子かさえ判っていなかった。
そっと差し出された点字用紙には「しんまい」と書かれてあった。
僕の脳裏に真っ白な炊き立てのつやつや光るごはんが浮かんだ。
「秋やなぁ。食べたいなぁ。」
僕はつぶやいた。
「はい。」
その子はやっぱり小さな小さな声で返事をした。
そして僕達は微笑んだ。
お互いを見つめて微笑んだ。
(2017年10月16日)