溜め息

連日の小学校での福祉授業は結構ハードだった。
点字や手引きなども加えて二日間で8時限の授業をこなしたことになる。
少しの疲労感を感じながら家を出た。
お昼過ぎまでの高校の授業が終わったら急いで東京に向かわなければいけない。
ラッシュの電車の中でそんなことを考えていたら溜め息が出てしまった。
烏丸駅で電車を降りてホームの移動を始めた。
点字ブロックを白杖で確認して慎重に歩き始める。
混んでいるから他の人にぶつからないように
他の人が白杖にひっかからないように、
そして自分がホームから落ちないように。
朝の多忙さ、一応歩いている僕、声をかけてくれる人は少ない。
元々あきらめている僕がいる。
「改札まで一緒に行きましょう。」
珍しく男性が僕の左から声をかけてくださった。
右手で白杖を持っている僕には一番いいポジションだ。
僕は御礼を言うのとほとんど同時に彼の右手の肘をつかんだ。
その瞬間何とも言えない安堵感を感じた。
これでのんびり改札口まで行ける。
僕達はホームを歩きエスカレーターに乗り友達のように歩いた。
改札口でありがとうカードを渡しながら感謝を伝えた。
「お気をつけて。」
返ってきた彼の言葉はとても爽やかだった。
同世代と思われる彼をかっこいいと思った。
僕はそこから地下鉄に乗り換えて高校のある京都駅に向かった。
いつものように慎重に動いたが幾度か外国人の団体に道をふさがれた。
大きなトラベルバッグを引っ張っての移動、点字ブロックの意味などもご存知ないの
だろう。
文化の違いだから仕方がない。
やっと京都駅の改札に着いた。
見えないで動くってやっぱり大変だよなぁ。
改札口の横の待ち合わせ場所でまた溜め息が出た。
「先生、こんな場所で何してるんですか?」
突然の声の主は僕の講義を受講している女子大学生だった。
アルバイトに向かう途中とのことだった。
「次の講義の時は私が迎えにきますからね。」
彼女は次の講義の時の待ち合わせを確認しながら笑った。
その日も高校の授業の後の大学なので時間に追われる予定だ。
彼女が高校の近くまで迎えに来てくれて、
一緒にランチして大学へ向かうということになっている。
知っている人、知らない人、関係なく支えてくれる人がいる。
その人達の協力で僕の毎日が成り立っている。
人間の社会だからこそだ。
彼女と握手しながら溜め息が笑顔に変わるのを感じた。
(2017年10月27日)