3LDKの団地のベランダ、
形状も広さも身体が憶えている。
時々一人でそのベランダを歩く。
白杖を持たずに勘で歩く。
父ちゃんが大切にしていた寒蘭の鉢植えに水をやるのが僕の仕事だ。
ジョーロで水をやりながらふとお日様のぬくもりに気づく。
最後の一滴まで水をやってからジョーロを置いて腰を下ろす。
僕はお日様の方に両手を出してぬくもりをすくう。
お日様の光をすくう。
指の隙間から零れ落ちないように両手をしっかりとお椀の形にしてすくう。
光が少しずつ蓄えられていく。
やがて溢れだす。
僕は静かにそれを凝視する。
見えない光の美しさに圧倒される。
ふと小さな風が通り過ぎる。
うれしいのか悲しいのか区別できない涙が一筋流れる。
見えない目から当たり前に流れる。
(2018年2月4日)