無言のぬくもり

バス停でバス待ちをしていた僕に彼女は声をかけてくださった。
名乗ってくださったが誰なのかは判らなかった。
僕の本を読んだということをうれしそうにおっしゃった。
それから三日前も一か月くらい前も僕を見かけたと教えてくださった。
でも誰かと一緒だったので声をかけるのを躊躇されたらしかった。
やっと機会に出会えたという感じだった。
彼女は本の感想などは何もおっしゃらなかった。
今朝の天気予報と目前の雲一つない空の青さを口にされた。
それからバスが到着するまでの時間は無言で過ごされた。
僕達は無言で会話していた。
見えない僕が言葉をやりとりできない世界は本当は難しい。
でも心はそこを越えてしまう時があるから人間って素晴らしい。
数分間の無言の会話の後やっと彼女は口を開かれた。
「バスがきました。気をつけていってらっしゃい。
お会いできてうれしかったです。」
「ありがとうございます。行ってきます。」
僕は感謝を伝えてバスに乗り込んだ。
(2018年5月2日)