単独移動

ゴールデンウィークはいくつかの用事などもあったが例年よりはのんびりできた。
ゴールデンウィークの終わった翌日、僕は東京へ向かった。
会議に出席するためだ。
遊び疲れなどではないがなんとなく気だるさをひきずりながら家を出た。
天候の下り坂のせいもあったのかもしれない。
小雨の中、傘をさしながら歩き始めた。
いつもの道をゆっくりと歩いてバス停の点字ブロックを確認して止まった。
バスのエンジン音が近づいてきた。
僕の前でドアが開くと同時に放送が聞こえた。
「桂川駅行きです。正面が横向きの椅子です。全部空いています。」
完璧な案内だった。
「ありがとうございます。」
僕は首だけ運転手さんの方に向けて大きな声でお礼を伝えた。
そして座った。
何故か少し元気が出たような気がした。
桂川駅では僕を見つけた駅員さんが声をかけてくださった。
「何かお手伝いすることはありますか?」
僕は東京駅まで行くことを告げてサポートを依頼した。
それから駅員さんは乗換駅などに連絡をされているようだった。
やがて別の駅員さんが出てきて僕をホームまで案内してくださった。
「雨と一緒に東京ですね。きつく降らなければいいですね。」
電車待ちの時間に駅員さんは笑顔で話をされた。
「この時間帯はきっと混んでいるので入口の手すりに案内してください。」
僕は話の流れにのっかりながら依頼をした。
電車が到着して予定通りに入口の手すりの位置に乗車した。
「気をつけて行ってらっしゃい。」
駅員さんの声が車内に乗り込んだところでドアは閉まった。
僕はホームの駅員さんにお辞儀をした。
電車が動き始めてすぐに男性の乗客が声をかけてくださった。
「お座りになられますか?」
「ありがとうございます。助かります。」
僕は声をかけてくださった男性がどちらにおられるかは判断できなかったので、
とりあえず大きな声でお礼を言いながら座った。
またまた少し元気になった。
電車が京都駅に到着した。
僕を待っていた京都駅の駅員さんは慣れた手引きで僕を新幹線乗り換え口まで案内してくださった。
「ここからは東海の職員に交代します。
引継ぎ予定時間までに後4分くらいありますから待っていましょう。」
それから駅員さんは昨日までの京都駅の混雑の凄さなどを教えてくださった。
そして僕の視覚障害を意識してか歩きスマホの危険性なども語られた。
東海の駅員さんが到着された。
「行ってらっしゃい。」
京都駅の駅員さんは僕にそう言いながら引継ぎをされた。
「階段は大丈夫ですか?」
東海の駅員さんが尋ねられた。
「何でも大丈夫です。」
「階段が一番近いので階段で行きますね。」
僕は駅員さんと上りホームに移動した。
「業務連絡、4号車、乗車です。」
僕の乗車予定ののぞみ号が近づいてくるタイミングで駅員さんはハンドマイクで放送をされた。
「了解。」
またどこからか放送が入った。
ドアが開いたところにのぞみ号の客室乗務員の方が待機されていた。
無線で僕の乗車予定が伝えられていたのだ。
「気を付けて行ってらっしゃい。」
先ほどの駅員さんの声が背中を押した。
「ありがとうございました。」
客室乗務員の女性は僕を指定席まで案内してくださった。
「東京駅ではまた降車のお手伝いをさせてもらいます。」
こうして当たり前のように駅員さんや市民の方にお手伝いしてもらいながら僕は国内ならどこにでも行ける。
目隠しをした状態の人間が単独で移動できる社会って素晴らしいと感じる。
人間だからこそ築ける社会のような気がする。
そして人間同士の関わりは生きていく力や勇気をくれる。
出発の時の疲労感は完全に消えていた。
東京駅に着いたら満面の笑みのガイドさんが待っていてくださった。
幸せな気分になった。
(2018年5月9日)