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雑踏の中で

いつものように点字ブロックに従って進んだ。
改札口で白杖が前の人に後ろからぶつかった。
「すみません。」
僕はすぐに謝った。
前の人は無言だった。
ゆっくりと歩いているしちょっと触れたくらいだから痛くはないと思う。
でもぶつかったのは僕なのだからいつも謝るようにしている。
一歩後ずさりして少し時間を置いてからまた進んだ。
またぶつかった。
僕はまた謝った。
やっぱり無言だった。
外国人なのかもしれないと思った。
三度目も同じだった。
「改札を通りたいのですが。」
僕はお願いした。
やっぱり無言だった。
僕に気づいてくれた駅員さんが通路を確保してくださった。
僕は改札を通り抜けて歩き始めた。
それから駅員さんは僕がぶつかった人に話しかけていた。
「どうしました?」
「地下鉄に乗り換えて京都駅へ行きたいのですが、この改札口でいいですか?」
声の主は利発そうな少女だった。
はっきりとしっかりと質問していた。
外国人でもなかったし聞こえない人でもなかった。
知らない人とは関わらないようにと教えられているのだろうか?
それとも白い杖を持ったサングラスのおじさんが怖かったのだろうか?
僕は何か不思議な気持ちになった。
少し寂しかった。
点字ブロックを確かめながら地下鉄の改札口に進んだ。
「松永さん!」
人込みの中で誰かが僕を呼んだ。
僕は立ち止った。
「今日はどこまでですか?」
僕はオープンキャンパスに向かう学校の名前を告げた。
「相変わらずお休みなしなのですね。未来のために頑張ってください。」
彼女はそれだけ言って立ち去った。
誰だったかも判らなかった。
「未来のために」というフレーズが僕の心の中でこだました。
白杖を握り直して背筋を伸ばして僕はまた歩き始めた。
(2018年7月29日)