無償の愛

皇居東御苑を散策した。
江戸城天守閣跡に続く道は急な上り坂だった。
「もうすぐ頂上ですよ。」
サポートしてくれていたたかひろちゃんは僕を励ますように伝えてくれた。
僕達は45年前のおぼろげな思い出を語りながらのんびりと歩いた。
横浜の叔母宅へお世話になったのは僕が高校一年生の夏休みだった。
たかひろちゃんは6歳、弟のひでおちゃんはまだ幼稚園だった。
叔父さんが食べさせてくださったシュウマイがおいしかったのは憶えているのに、
二人の顔は憶えていない。
でも一緒に過ごした時間が楽しかったことは記憶している。
僕は高校を卒業して京都で暮らすようになったこともあって、
それ以降、彼らと会う機会はなかった。
数年前、親族の法事で再会した。
そして今回、東京でいとこ数人と会うことになった。
血縁がどれほどの意味があるのかは分からない。
いとこくらいになれば、会う機会のない人の方が数的にも多い。
でも他人とは違う何かを感じるのは不思議だ。
DNAがささやいているのかもしれない。
利害もなく、また会える保証もなく、ただ無償の愛が微笑む。
「梅が咲いていますよ。」
ひでおちゃんのパートナーのともこさんが僕の手を誘導する。
無償の愛はさりげなく血縁さえも超えていく。
(2019年2月3日)