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通りかかった車

柔らかな早春の日差しの中、粉雪が舞っていた。
光を皮膚で感じながら歩いていた。
顔に当たる粉雪を感じながら歩いていた。
気分が良かった。
良過ぎたのかもしれない。
いつもの横断歩道、スタート地点の点字ブロックを確認する作業を怠った。
しばらく歩いて気づいた。
反対側の点字ブロックが見当たらない。
その時だった。
「方向がズレてますよ。」
反対車線で一旦停止した車の運転手さんの大きな声が聞こえた。
いつの間にか歩道から車道に飛び出してしまっていたのだ。
車道を歩いてしまっていたのだ。
やってしまった。
後悔の思いと恐怖感が混ざりあった。
僕は歩道と思われる方向に歩き始めた。
4車線のほとんど中央まで行ってしまっていたようだった。
車のエンジン音だけに注意しながら少しずつ移動を始めた。
「ガードレールで入り口がありません。」
さっきの運転手さんは車を降りて僕のところに駆け寄ってくださった。
車は中央付近の路上に止めたままで助けにきてくださったのだ。
そして、僕を歩道のところまで案内すると急いで戻っていかれた。
助かった。
気づいてくださる人がいる。
気づいて声をかけてくださる人がいる。
でも、わざわざ走行中の車を路上に止めてまでして助けるというのはなかなかできる
ことではないだろう。
そういう人が通りかかってくださったというのは僕に運があったのだ。
走り始めた車に向かって頭を下げた。
心からのお礼をつぶやいた。
歩き始めたら、再び早春の光を感じた。
人間って素敵だなと思った。
(2019年2月11日)