夜の声

雨が降っていた。
19時過ぎという時間からすれば、もう夜の帳が降りているのだろう。
街灯も少ない道だった。
街灯は僕自身の役には立たないのだけれど、
少なそうなのはなんとなく心細かった。
雨音で他の音も聞き辛かった。
僕は白杖を慎重に左右に振りながら足を一歩一歩前に出した。
足裏で地面を確かめながら歩いた。
点字ブロックがあるところまでたどり着けば無事に帰れる。
自分に言い聞かせながら歩いた。
どこを歩いているかは分からなかったが祈りながら歩いた。
「松永さーん!ボランティアの者でーす。大丈夫ですか?」
道を隔てた反対側から大きな声が聞こえてきた。
「大丈夫です。ありがとうございます。」
僕は声の方に向かって頭を下げた。
そして無意識に手を振った。
うれしさを身体全体で表していた。
人間の声にはぬくもりがある。
ぬくもりには力がある。
不安がそれをキャッチしたのだろう。
あともう少し!
また自分に言い聞かせて歩き始めた。
なんとなく先ほどまでよりも背筋が伸びていた。
(2019年3月16日)