緑の匂い

目が見えなくなって他の感覚がよくなることはない。
老眼になった人の聴力がよくはならないのと同じだ。
老いと伴にどちらもが悪くなってくる人も多い。
この科学的な事実からすれば、鼻が成長する筈はない。
それなのに昔感じなかった匂いを感じることがある。
この季節の緑の匂いもそのひとつだ。
一枚一枚の葉っぱに鼻を押し付けても何も匂いは感じない。
それなのに緑の中をそよぐ風には確かに匂いがあるような気がする。
僕の思い過ごしだろうか、勘違いだろうか。
立ち止って鼻を主人公にしてゆっくりと呼吸してみる。
やっぱり微かに緑の匂いがする。
確認ができたらうれしくなる。
今度は口を開けて深呼吸する。
そしてもっとうれしくなる。
(2019年5月6日)