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梅雨空

「松永さん、お久しぶりです。」
彼女は僕に声をかけてから氏名を名乗った。
声での認識はできなかったけれど、氏名は記憶にあった。
初めて出会ったのは小学校での福祉授業だった。
中学生の時も高校生になってからも偶然地元の駅で出会った。
今回はたまにしか使わない駅での再会だった。
彼女は大学生になっていた。
目指す職業のために頑張っていることを教えてくれた。
たったそれだけの会話を交わし、握手をし、それから彼女は雑踏に消えていった。
コーラを飲んだ後のような爽やかな感覚になった。
見えなくなって活動を始めてからの時間を考えた。
長い時間が流れたのだなと思った。
見えないのが普通になったのだなとなんとなく思った。
普通になったのはうれしいことなのか残念なことなのか分からない。
ただこれからどれだけの時間が通り過ぎたとしても、
見えることへの憧れは持っていたいなと思う。
持ち続けて生きていきたい。
そんなことを思ったら、ついまたいつものように空を眺めてしまった。
梅雨空さえも愛おしく感じた。
(2019年6月28日)