少年

竹田駅から地下鉄に乗車した。
大学の帰りにたまに利用する駅だ。
一か月に数回の利用ということになる。
駅の構造は勉強をしたので一応理解している。
問題はホームにたどり着いてからだ。
階段を下りた場所はホームの端なので少し移動しなければならない。
始発の駅なので既に電車が停車していることもある。
この時点では音はしていないので分からない。
なんとなくの気配、他の人の足音などで判断する。
光が分かれば影が分かる。
きっと電車にも気づくだろう。
僕は光も感じられないのでどうしようもない。
停車しているのかもしれないと思ったら白杖をそっと出して車体を確認する。
判断が間違っていて電車がなければ前につんのめりそうになる。
落ちかけてしまうということだ。
重心を残したまま慎重にそっと探るのが大切だ。
毎回肝試しをしているような感覚になる。
今日もやっと電車に乗車した。
無事乗車して入り口の手すりを持ったらやっぱりほっとした。
今日は少し急いでいたので慌ててしまった。
反省した。
電車が四条駅に到着した。
この駅は安全策が付いているので安心だ。
落ちることはない。
ただ、自分のホーム上での正しい位置は分かっていない。
竹田駅から勘で乗車しているのだから仕方がない。
右に進むか左に進むかも勘だ。
ちなみに9割以上の成功率だ。
今日は1割だったらしい。
左に向かって少し歩いたところで誰かが僕の手を二度ノックした。
腰丈ほどの少年だった。
か細い声だったので聞き取れなかった。
僕は腰をかがめて再度尋ねた。
「階段は反対側にあります。」
少年は少しだけボリュームをあげて教えてくれた。
「ありがとう。助かるよ。」
僕は心からの感謝を伝えた。
少年はすぐに姿を消した。
ありがとうカードを渡す間もなかった。
階段を上りながらしみじみとうれしくなった。
夕方のラッシュのホーム、たくさんの人が動いていた。
そのホームの片隅に小さな幸せが待っていた。
未来を予感させる感じがした。
僕はしっかりと白杖を握り直した。
(2019年10月7日)