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ふきのとうの佃煮

春の風を感じたせいかもしれない。
無性に食べたくなった。
僕はデパートに電話して尋ねた。
「ふきのとうの佃煮はありますか?」
調べて折り返しの電話をしてくださるとのことだった。
祈りながら電話を待った。
子供みたいだと思いながら待った。
しばらくして電話がかかってきた。
老舗の佃煮屋さんにあるとのことだった。
僕は友人に手引きを頼んでデパートに出かけた。
地下の食料品売り場にそのお店はあった。
すぐに食べるならと店員さんは自然のままの方を勧めてくださった。
僕は喜んでそちらを買い求めた。
家に帰り着くなり袋を開けた。
タッパーに入れながら我慢できずに指でつかんで少し口に入れた。
それから数回噛んで、口を動かすのをやめた。
舌先に神経を集中させてじっとした。
静かに呼吸しながらじっとした。
なんとも言えない苦みがじわじわと口中に広がった。
幸せを感じた。
たった一口のふきのとうに魔法をかけられたような感じだった。
つくづくとうれしくなった。
もうしばらくすれば桜が咲くだろう。
春を迎えられることは幸せなことなのだとなんとなく思った。
(2020年3月18日)