皮をむいただけの桃を丸ごとかじる。
味覚と嗅覚だけが研ぎ澄まされる。
意図的にそうしているのではない。
無意識にその感覚に包まれていく。
幸せに気づいてふと微笑む。
食べ終わってからそっと瞼を開ける。
赤色と黄色が溶け込んでいた桃を思い出す。
桃色ではなかった。
しばらく考えてから桃の花の桃色を思い出す。
そして自分が恥ずかしくなる。
懐かしい色の記憶だ。
もう見ることはないのだろう。
それを自然に受け止められるようになっている自分を愛おしく思う。
ご苦労様と自分自身に言葉が漏れる。
受け皿にしていた皿を両手で抱えてこぼれた果汁を飲み干す。
思いっきりの笑顔になる。
(2020年8月5日)