犬も歩けば

ここ数日で3度ぶつかった。
道路標識、おばあちゃん、おじさん。
道路標識とぶつかるのは白杖の使い方の問題だと思っている。
技術の劣化だと思うから痛いより悔しい方が大きい。
白杖の達人を目指している僕にとってはプライドの方が傷つく感じだ。
おばあちゃんには後ろからぶつかった。
おばあちゃんは僕の左前方をゴロゴロを引っ張りながら歩いておられたが、
突然僕の前に入ってこられた。
あまりにも突然の進路変更だったので避けられなかった。
白杖がほんの少し当たった程度ですんだのでほっとした。
押し倒すようなことになってしまったら大変だ。
どうしておばあちゃんかと思ったかというと、そのスピードと動き方の雰囲気だ。
多分の話なのだがなんとなく自信はある。
おじさんとは正面衝突だった。
結構なスピードでぶつかったのでゴツンと音がした。
サングラスとマスクが外れるくらいの衝撃だった。
僕は点字ブロックを白杖で触りながらの歩行だった。
ぶつかったのは相手の方の不注意だと思う。
それでもぶつかった瞬間に僕の方から声が出た。
「大丈夫ですか?」
見えなくなってからもうどれくらいいろいろな物や人にぶつかったことだろう。
おでこにはいくつかの傷も残っている。
ぶつかり慣れているということかもしれない。
「大丈夫です。すみません。」
という返事でおじさんと分かった。
一瞬、視覚障害の人かと思ったがそうではないようだった。
「ぼぉっとしていて前が見えていませんでした。」
おじさんは申し訳なさそうにおっしゃった。
「僕も見えていませんでした。」
という言葉が頭の中に浮かんだが飲み込んだ。
ブラックジョークになってしまうような感じがしたからだ。
とにかくお互いにケガはなかったようだった。
おじさんと別れて、また点字ブロックを白杖で触りながら歩いた。
「犬も歩けば棒に当たる」というカルタの言葉を思い出した。
その意味を今でも知らないことに気づいた。
僕は棒を持った犬みたいなものかなとおかしくなった。
(2020年11月27日)