丸いシール

著書「風になってください」がデビューした2004年に彼と知り合った。
正確に言えば、読者として彼が僕を知ってくれたのだ。
同世代の男同士、生きる意味を見つける旅の途中で出会ったということなのだろう。
17年の歳月が流れたということになる。
実際に会ったのは一度だけ、メールのやりとりは年に数回あるかないかだ。
何かのきっかけでお互いに思い出したりするのだろう。
今回は彼からレターパックが届いた。
コーヒーのスティックタイプを見つけて僕を思い出してくれたらしい。
同時に案内のメールも届いた。
「ジッパー袋に入れて、袋中央にシールを貼っています。
シールは縦に並べて貼っています。
1枚がモカ、2枚がコロンビア、3枚がブラジル、4枚がキリマンジャロです。
わかりにくくて申し訳ありませんが、指でなぞってみて下さい。
それから、油で揚げていないローストアーモンドを同封しています。
あっさりしていて、僕のお気に入りの品なんです。
コーヒーと一緒につまんで頂ければ幸いです。」
僕は早速ジッパー復路のシールを指先で確認した。
シールが3枚のブラジルを選んでステックの封を開けてマグカップに入れた。
それからティファールでお湯を沸かしてマグカップに注いだ。
コーヒーの香りが僕を包んだ。
ローストアーモンドをつまみながらコーヒーを味わった。
至極の時間、時計を止めて味わった。
届けてくれた彼に、そして生きている自分自身に感謝した。
この時代にこの社会で出会う偶然と必然、不思議に感じた。
僕はもう一度、ジッパー復路のシールを指先でなぞった。
丸いシールを指先で幾度もなぞった。
幾度も幾度もなぞった。
ゆっくりとなぞった。
なぞりながらやさしい気持ちになっていくのを感じた。
人間には伝えるという力があることをあらためて感じた。
そして、こんなやさしさを届けられる人になりたいと思った。
(2021年7月18日)