タオルハンカチ

見える人、見えない人、見えにくい人、
皆で何かやりたいねと、
僕達が始めた町家カフェさわさわ。
試行錯誤しながら、きっと前に進んでいるのだと思っている。
先日、友人から、さわさわに立ち寄ったら、臨時休業だったとメールがあった。
オープンして、50日程度、スタッフを集められなくての臨時休業は2回だから、
まさに、タイミングが悪かったのだ。
汗かきの彼が、タオルハンカチを片手に、
店の入り口でがっかりしている光景が浮かんだ。
彼との出会いは、もう15年くらい前、
失明して、訓練を受けて、何も再就職の場所が見つけられなくて、
一人で視覚障害者用の物品の販売をやった頃だ。
「夢企画」という名前で、まさに、夢みたいなことをやっていた。
当時、40歳になったばかりの働き盛りで、
ただ、目が見えなくなっただけで、
無職という自分が許せなかった。
でも、雇用してくれるところもなく、
仕方なく、始めたものだった。
京都市の指定業者の資格を取ったり、
携帯電話の代理店をしてみたり、
僕なりに頑張ったけれど、殆ど、収入にはならなかった。
人生に、無駄な時間なんてないと、聞いたことがあるが、
今振り返れば、その通りだ。
お金儲けはできなかったけれど、その5年間で、たくさんの仲間達と話す時間が
あった。否応なしに、「見えないってどんなことだろう?」とか、
「障害って何だろう?」とか、
自分自身とも向き合う時間になった。
そして、エールを送ってくれる人達がいるのも知った。
彼は、僕のところに、商品を届けにくる業者だった。
エレベーターのない団地の5階まで、
フーフー言いながら、商品を運んでいた。
いつも、タオルハンカチで汗を拭きながら、
さりげない会話で、僕を励ましてくれた。
そして、そのうち、時々、僕の配達を手伝ってくれた。
きっと、リュックサックにたくさんの商品を入れて、
大きな紙袋を下げて、白杖で歩く僕を見かねてのことだろう。
15年の間に、お互いに転職した。
タイガースが優勝した年には会いましょうが、
僕達の合言葉だ。
だから、会ったのは・・・。
人生には、こんな感じもいい。
男同士、こんな出会いもいい。
(2012年8月28日)