ドイツ料理

彼は僕をドイツ料理の店に招待してくださった。
人生の途中で視覚障害になった僕達は年齢も近い。
失明したのもほとんど同じ時期だ。
でも、どのように生きてきたのか、お互いに知らない。
その時に何を思い、どうやって悲しみや苦しみと向かい合ったのかもわからない。
ただ、お互いに同じ未来を見つめようとしていることだけは確認できた。
それだけでいいのだと思う。
琥珀色のオニオンスープはたまねぎ本来の甘さを主張していた。
新鮮なサラダには手作りのドレッシングがよく合っていた。
舌平目のロールは手が込んでいた。
オーブンでしっかりとローストされていて絶妙な味だった。
僕は珍しく、盛り合わせのデザートまで完食した。
時々の会話と笑いが幸せを増幅させていた。
60歳を超えている僕達はそんなに大きなことはできない。
でも、ほんの少しでいいから、何かができればいいなと思う。
そんな爽やかな思いをかみしめながら最後のコーヒーを飲み干した。
幸せってさりげないものなんだと再確認した。
そして空間に、時間に、共に過ごした人達に、ありがとうと思った。
(2021年11月17日)