バイバイ

地元のバスはほとんど座れる。
始発から2つ目のバス停だから基本的に空いていることが多い。
乗客も地域の方が多いせいか空席を教えてくださることも少なくない。
時には馴染みの運転手さんがマイクで誘導してくださることもある。
今日は昼前に自宅を出たのだが乗車したバスは既に込んでいた。
「どこか空いていませんか?」
声を出すタイミングも逃した。
きっとどこかで座れると思いながら結局20分間立ったままだった。
運河悪い日だなと朝のラジオの血液型占いを思い出したりしていた。
桂駅から乗った阪急電車も立ったままだった。
烏丸駅までわずか10分程度だし座れる日はほとんどないから苦にはならない。
座れないのが普通だと受け止めてしまっている僕がいる。
烏丸駅から乗り換えた地下鉄も予定通りに立ったままだろうと思って乗車した瞬間、
ご婦人のサポートがあった。
声をかけてくださり空席を教えてくださり座らせてくださった。
座れるってこんなに幸せなことなのだとしみじみと感じた。
何度も何度もお礼を言いたい気分だった。
僕はうれし過ぎてありがとうカードを渡すタイミングさえ見失ってしまっていた。
電車が京都駅に着いた時、横から声がした。
「気をつけて行ってくださいね。」
さっきのご婦人の声だった。
時間は数秒しかなかった。
「ちょっと待ってください。」
僕はそう伝えながらあわてて胸ポケットを探ってありがとうカードをつかんだ。
「ありがとうカードです。どうぞ。」
ギリギリセーフだった。
僕は渡した後、バイバイをしていた。
電車が動き出して気づいた。
初めて出会った人にバイバイをしてしまっている自分がおかしかった。
仲良しの友達にバイバイしている感覚だった。
でもなんとなく納得した。
友達同士とまではいかないにしても、間違いなく人間同士なのだ。
バイバイ、バイバイ、バイバイ。
手を振ってバイバイ。
幸せの表現のひとつなのかもしれない。
(2021年11月27日)