駅のロータリーにあるモクレンは満開だった。
そこに続く歩道では沈丁花が香りの道を演出していた。
バスで帰ってきて道沿いの桜のつぼみを触ると少し膨らんでいた。
それぞれの花のやさしさが心に染みた。
染入った。
その染入り方がいつもの春とは違うことに気づいた。
染入るほどに悲しみが増していくのだ。
抵抗できない悲しみが広がっていくのだ。
ふと空を見上げる。
この星で今も戦争がある。
たくさんの命が消えていっている。
勝とうが負けようが命は失われていく。
敵であろうが見方であろうが命が消えていく。
銃を握っている人達が誰かを殺すことを夢見て生きてきたとは思えない。
白杖の人は戦うことは難しい。
がれきの中を逃げるなんて無理だ。
そこから先は考えない。
無力の自分が悲しくなるだけだ。
一面の花の中を歩きたい。
いつもの穏やかな春が恋しい。
(2022年3月18日)