蒼い匂い

引っ越してきた家は中古の戸建てで小さいながらも庭がある。
その小さな庭にこれまた小さな畑を製作中だ。
あこがれの家庭菜園というやつだ。
二坪程度の場所に夏野菜を植え始めた。
どこからどこまでが畑か確認が難しい。
ちょっと方向を間違えるとせっかくの苗を踏んづけてしまうことになりかねない。
あれこれ考えて、周囲をコンクリートブロッキュで囲むことにした。
それはこれからの作業だ。
順番が違うのだがそれは素人考えだから仕方ない。
とりあえずは周囲の草引きを始めた。
児童福祉施設で働いていた頃、子供達と畑仕事をしたりしていた。
梅雨の前後の草引きも仕事のうちだった。
草引きをしながらその蒼い匂いを好きになっていった。
畑仕事の合間には煙草を吹かしながら夏の始まりの空をよく眺めた。
いろいろな形の雲を追いかけた。
蒼い匂いが時計を逆回りさせてくれた。
僕は幾度も手をとめてそっと空を眺めた。
確かに見えていた頃があった。
ずっとずっと昔の話だ。
とっても愛おしい昔の話だ。
(2022年6月6日)