正直

講演、点字体験、手引き体験、二日間を使ってのフルコースの学習だった。
点字体験、手引き体験には地域のボランティアの皆さんも協力してくださった。
生徒達はそれぞれに何かを感じてくれたと思う。
この中学校に関わるようになって20年くらいの時間が流れた。
ほぼ毎年、こうしてお招き頂いている。
有難いことだと思う。
この地域ではバス停や信号などで僕達にサポートの声をかけてくださる人の割合は他
の地域よりも高いような気がする。
それは僕だけではなく仲間からも聞いたことがある。
こういう地道な活動が少しはいい影響につながっているのだと思う。
毎年いろいろな関わりがあるのだが、今回も印象的なことがあった。
あるクラスでのすべてのプログラムを終えた時だった。
担当の先生と一人の女生徒が僕のところにきた。
「生徒がお伝えしたいことがあるようです。」
先生の声に背中を押されるようにして女生徒は口を開いた。
「白杖を持った視覚障害者の人が電柱にぶつかって、持っていたスマホも落とされま
した。私は近くで見ていたけど、何もできませんでした。」
彼女がどこかで自分自身を責めているのが伝わってきた。
僕はただ聞いていた。
彼女は続けた。
「でも、もし同じようなことがあったら、今度は勇気を振り絞って声をかけて手伝え
るようになりたいです。」
彼女の精一杯の言葉が僕の胸に染み込んでいった。
「できたことを人は言うけど、できなかったことを言うのは勇気がいるよね。貴方の
心の中に勇気が生まれたということだよね。いつかきっとできるようになるかもしれ
ないよ。急がなくていいからね。」
僕はゆっくりと言葉を返した。
「ありがとうございました。」
彼女は小さな声でそれだけを残して会場を出ていった。
僕はその後姿を素敵だと感じた。
生徒に何かを教えられたような気がした。
年を重ねて、言い訳も上手になってしまった。
それが大人になるということなのかもしれない。
でもやっぱり、正直であるということが美しいのだ。
今年も生徒達に出会えてよかったと思った。
(2022年7月12日)