師走

11月の最終日、僕は同行援護の研修で東京出張だった。
東京駅を18時過ぎの新幹線に乗車して自宅に帰り着いたのは22時を過ぎていた。
夕食は駅弁でわらせていたので帰り着いたら寝るだけだった。
熟睡した。
あっという間に朝が始まった。
師走の初日、小食にコーヒーとハムエッグとトーストをしっかりと食べた。
ついでに栄養ドリンクも飲んで家を出た。
駅に着いたら、点字ブロックの上でご婦人達が会話に夢中のようだった。
仕方ないとあきらめて少し離れた場所で電車を待っていた。
電車の到着が遅れるという案内放送も流れたりしていた。
やがてホームに入ってきた電車の音が反対から聞こえたような気がした。
僕は動かなかったが、それは僕の錯覚で失敗だった。
電車に乗り遅れてしまったのだ。
午前中は同志社女子大学の寒梅館での講話の仕事が入っていた。
関係者と待ち合わせた地下鉄今出川駅に少し遅れての到着となってしまった。
寒梅館に入るとパイプオルガンの音色が聞こえた。
心がゆっくりと静まっていくような感じがした。
寒梅館はヘレンケラーさんが講話をされた場所だ。
同じ場所に経つというだけで光栄だと思い、そして魂が揺さぶられた。
終了後は地下鉄で龍谷大学に向かった。
今出川駅で電車に乗ると女性の乗客の方がすぐに空いてる席に案内してくださった。
本当に有難いと思った。
大学に着いて昼食を済ませた。
講義が始まるまでの時間、教室で少し休憩をした。
珍しく疲労を実感している自分に気づいた。
講義が終了すると学生に京都駅まで送ってもらった。
無理はしない方がいいと判断したのだ。
駅でも夕方のラッシュだったので駅員さんにサポートをお願いした。
親切な駅員さんは空いてる席を探して座らせてくださった。
座った途端に安ど感みたいなものを感じた。
そして電車が京都駅を出発して二つ目の駅を出た辺りで睡魔に襲われてしまったらし
かった。
一瞬のことだった。
気がついた時は既に電車は降りる予定だった地元の駅を通り過ぎていた。
愕然とした。
僕は仕方なく次の駅で電車を降りた。
初めての駅だった。
駅の構造も何も分かっていなかったので一歩も動けなかった。
恐怖心だけを感じていた。
僕は周囲に声を出した。
気づいてくださった男性が助けてくださった。
階段を降りて反対側のホームに連れて行ってくださった。
次の電車の到着時刻を教えてくださりドア付近の点字ブロックを教えてくださった。
僕は心からの感謝を伝えた。
次の電車に無事乗車して最寄り駅に着いたがまだ喚問があった。
逆方向からだったので頭の中の地図が混乱してしまっていたのだ。
どちらに動けばいいか迷ってしまった。
あせって立ち止まった僕に子供連れの女性が声をかけてくださった。
僕は階段を教えてくださいとお願いした。
そして無事帰宅できた。
長い長い師走の初日となってしまった。
体力の衰えを感じた。
耳も少し遠くなってきているのかもしれない。
更に慎重に動かなければと思った。
そして助けてくださった人達に心から感謝した。
人権月間の12月、たくさんの学校からお招きを受けている。
丁寧な毎日を過ごしながら、人間の社会のやさしさをしっかりと伝えていければと思
う。
師走の一日一日、ささやかな歩みを続けていきたい。
(2022年12月2日)