幸せのおにぎり

午前中は9時過ぎから自宅でzoom会議に出席していた。
会議はお昼までかかってしまった。
急いで昼食を済ませて家を出た。
午後の専門学校の授業にギリギリのタイミングだった。
お昼時間の駅のホームは空いていた。
乗り換えがスムーズに行くように考えてホームを少しずつ移動した。
サポートの声がした。
僕は喜んでお願いした。
最近、彼女は丸太町駅付近で僕を見かけたらしかった。
「サングラスが素敵だったから憶えています。」
怪訝な感じの僕にそうおっしゃった。
単純な僕はそれだけで上機嫌になった。
電車に乗ると僕達はボックス席に向かい合って座った。
友達みたいに会話が流れた。
彼女は2個あるおにぎりをひとつあげようとおっしゃった。
何かの記念のお土産らしかった。
「梅と昆布とどっちがいいですか?」
昆布と出そうになった言葉を飲み込んで僕は答えた。
「レディファーストです。貴方はどちらがいいですか?」
彼女は梅を選んだ。
僕は心の中でそっと喜んだ。
わずか10分ほどの出会い、それも初対面だ。
しかもお土産のおにぎりまで頂いた。
厚かましいのかもしれないが人生にはこういうこともある。
ちょっと早いクリスマスだなと思いながら彼女と別れた。
学校に到着して学生達に今日の出会いの話をした。
昆布のおにぎりがうれしいんじゃなかった。
人間同士の交わりの中で生まれる時間と空間、素敵だと思った。
学生達の中には留学生も多くいた。
その中に昼食をとっていない学生がいた。
僕は授業の後そっと彼に伝えた。
「幸せのおにぎり、どうぞ。」
幸せが連鎖した。
笑顔がつながった。
(2022年12月20日)