さむらいヘルメット

僕は見えなくなってからはフリーターをやっている。
横文字にすれば聞こえはいいが定職につけなかったということだ。
見えなくなった頃、職業はと尋ねられて無職と答えていた。
目が見えないだけなのに無職と言葉にしなければならないのはとても辛かった。
聞こえだけの理由で自由業となりフリーターとなったのだと思う。
定職につけなかったのは僕だけの問題ではなく社会の問題だと得意の責任転嫁もして
きた。
でも最近はここまで頑張れたのだからいいにしようと少し思えるようになってきた。
お金も名誉も縁がなかったけれどそれなりの充実感を感じているからなのだろう。
いくつかの仕事の中に介護福祉士を養成する専門学校の非常勤講師がある。
引き受けてからもう20年くらいになるかもしれない。
「障害の理解」とか「コミュニケーション技術」というのが僕の担当科目だ。
福祉の仕事を目指す学生達は基本的に優しい。
優しい人達と交わるのだから僕自身もうれしくなることが多い。
今日は学生達と折り紙をした。
アイマスクをして折り紙を折るのだ。
今年の学生の中にはフィリピン、中国、ベトナム、ウズベキスタンからの留学生もい
た。
折り紙というのは日本の文化らしくて留学生達は手こずっていた。
その光景がおかしくて僕は笑い転げながら対応した。
年齢を超えて性別を超えて、そして国境を越えて触れ合えるのはとても楽しい。
見える世界と見えない世界を超えて笑顔になれるのは素晴らしいことだと思う。
今日折ったのはかぶとだった。
出来上がりを見ても留学生達は不思議そうだった。
さむらいヘルメット!
笑顔で納得してくれたようだった。
(2023年1月24日)