雷雨

夢中で草抜きをしていた。
長袖シャツと長ズボン、麦わら帽子を覆うように付いている網が顔も隠していた。
庭仕事の時のユニフォームだ。
前触れもなく突然に冷たい風が吹き始めた。
雨もぽつりぽつりと落ちてきた。
空が我慢できずに泣き始めたような感じだった。
手に当たる感覚よりも麦わら帽子に当たる音の方が早かった。
雨は大粒になり、同時に雷様のうなり声が聞こえた。
凄まじいほどのうなり声だった。
きっと稲光も凄いのだろうと想像できた。
泣き始めた空は大泣きに変わった。
僕は家の中に引っ込もうと思ったが行動が伴わなかった。
なんとなくその場に座りたくなったのだ。
人間は時々思いもよらぬ行動をすることがある。
自分でも意味不明の行動だ。
脳が考えて動くのではなく脳を無視して身体が動くのだろう。
そんな瞬間は結構好きだ。
ゴロゴロ、ババーン、吠え続ける雷様、雨の音も大きかった。
僕は地球に座り込んでその雰囲気を楽しんだ。
自然の交響曲だった。
生きているんだな。
当たり前の何でもないことをただ感じた。
麦わら帽子をとって顔を空に向けた。
口を開けた。
子供の頃にやった記憶がある。
どうしてやったのかは憶えていない。
でも確かにやったことがある。
そしてその時もうれしかったのだろう。
だから記憶の中に残っているのだろう。
見えていたら稲光が怖くてとっとと家の中に引っ込んだはずだ。
そんなことも考えてそれもまたうれしかった。
(2023年7月13日)