一期一会

福祉の専門学校でオープンキャンパスの仕事があったので出かけた。
JR山科駅で地下鉄に乗り換えるために動いた。
ホームにたどり着き、ぼぉっと地下鉄を待っていた。
「松永さん、久しぶり。」
懐かしい声だった。
失明して間もない頃に知り合ったボランティアさんだった。
彼女のご主人は耳鼻科のドクターで、その後京都市の会議などで幾度もご一緒した。
まさにご夫婦でいろいろと応援してくださった。
体力的にも限界だからと今年度で医院を閉められるらしい。
そのタイミングで再会できたことをうれしく感じた。
これまでのことに再度感謝を伝えた。
彼女は僕が乗り換える駅のひとつ手前で降りていかれた。
僕は予定の烏丸御池駅で電車を降りた。
ここの駅での乗り換えはハードルが高い。
駅自体が複雑な構造なのだ。
周囲の音に耳を凝らしながらどう動けばいいか考えていた。
突然、外国人の二人の女性が話しかけてきた。
何か尋ねられると思った僕は即座に手でサングラスを示しながら断った。
「I am blind!」
それでも彼女たちは会話を続けてきた。
どうやらサポートを申し出てくださっているらしいと分かった。
そこからは片言の英語とジェスチャーで僕達はコミュニケーションを取った。
彼女の肘を持たせてもらって駅構内を歩きエスカレーターにも乗った。
エスカレーターに乗る時も大丈夫かと確認してくださった。
どこの国からきたかを尋ねるとスコットランドという単語が聞き取れた。
京都見物が終わって、これから東京に向かうとのことだった。
日本は美しい国だとの感想だった。
お寿司とラーメンがおいしかったとの言葉には僕も笑った。
会話の流れの中で、彼女たちの職業がドクターだと分かった。
しかも眼科のドクターだった。
僕の中で喜びが弾けた。
言葉もなかなか通じないのに、困っていそうに見えた僕を眼科医の彼女達は放ってお
けなかったのだろう。
地下3階の東西線のホームから地下2階の烏丸線へ移動した。
京都駅方面行の電車を待つ間も僕達は親交を深めた。
白杖を持った僕とサポートしながら歩く外国の女性達、語らう笑顔、なんとなくこの
街に似合うように感じた。
やがて電車がホームにはいってきて僕達は一緒に乗車した。
彼女達は僕を空いてる座席に座らせて自分たちは立っておられた。
僕は日本語のありがとうカードを渡した。
「thank you card please!」
次の駅で僕は電車を降りた。
乗降口で見送っている彼女たちに向かって深く頭を下げた。
「Have a nice day in Japan! thank you! ありがとう!」
それから改札口に向かった。
改札口でサポーターと待ち合わせていた。
サポーターは京都の大学で学んでいる医学生だった。
僕は学生とまた別の電車に乗って近鉄向島まで移動した。
ランチタイムだったので僕達は学生が探してくれたパスタ屋さんに向かった。
彼女は僕と歩きながら、田んぼに稲穂が実っていることを教えてくれた。
その上にある空の表情も伝えてくれた。
僕はそこに田んぼがあることさえ知らなかった。
秋の気配をただうれしく感じた。
日本の美しい風景のひとつだろうと思った。
あのスコットランドのドクター達も見てくれたのだろうとなんとなく思った。
帰宅してパソコンを開いたら、ホームページのお問合せフォームにメッセージが届い
ていた。
今朝のスコットランドのドクターからだった。

【Dear Mr Shinya Matsunaga,
We are the two Ophthalmologists from Scotland that met you on the subway in Karasuma Station this morning. We are honoured that we helped you and so amazed to see you do so much incredible work for and with visually impaired people. You are inspirational and I hope that we maybe meet again sometime in the future.
We learnt a phrase on our trip to Japan and our meeting with you fits it perfectly ichi go ichi e
Best wishes
Umaima & Mariam】

日本語訳
【親愛なる松永信也さん
私たちはスコットランドの眼科医で、今朝烏丸駅であなたにお会いしました。
あなたをお助けできたこと、光栄に思います。
そして、あなたが目に障害を抱える人たちと一緒になって、そうした人々のためにな
る素晴らしいお仕事をされているということに感動しました。
あなたは人の心を動かすことのできる人です。
いつか将来、またお会いできたらと思います。
日本への旅行であるフレーズを学びましたが、あなたとの出会いはこの言葉にぴった
りです。
「一期一会」
ご多幸を
ウマイマとマリアム】

インターネットで僕の活動などを検索されたのだろう。
正直、僕はそんなに素晴らしい人ではない。
でも、この一期一会という言葉、とてもうれしく思った。
日本の旅を終えたら、またスコットランドでお仕事をされるのだろう。
いろいろな病気の患者さんを治療してくださるのだろう。
そして励ましてくださるのだろう。
日本のドクターに僕がしてもらったように。
心から感謝の思いが沸き上がった。
一期一会、僕も大切にしたいと思った。
それにしても、ドクターという職業の人達に縁のある不思議な日となった。
(2023年10月2日)