爽やかな言葉

木曜日はハードスケジュールのことが多い。
龍谷大学での講義が通年で4時限目に入っている。
午前中に別の用事が入ればどうしてもハードになってしまう。
4月と5月は1時限目に福祉の専門学校での講義がある。
6月以降は大阪の高校も10日程ある。
長時間の外出となるし移動距離も長くなる。
昨日も朝7時前には家を出た。
バスで比叡山坂本駅まで行き、そこから湖西線で山科まで行く。
山科で地下鉄東西線に乗り換えて烏丸御池、そこで烏丸線に乗り換え、次に竹田で近
鉄電車に乗り換えて向島だ。
ちなみに目が見える人はこんなに複雑な乗り換えはしない。
見えない僕はいつもリスクを考えて動く。
朝7時台の京都駅での移動は避けたいと思う。
とんでもない数の人が動くからだ。
大きなスーツケースをゴロゴロ動かしながらの観光客も多い。
白杖や点字ブロックのことを知らない外国人も多い。
その中を目隠し状態で単独で動くのだからスムーズに行くのは難しい。
ちょっと遠回りで乗り換え回数が多くなっても仕方ないという判断だ。
ただ、このルートだから簡単ということでもない。
朝の駅はどこもそれなりに凄い人だ。
その中でホームを歩き、階段を上り下りし、エスカレーターを利用し、改札を通過し
なければいけない。
人の流れに乗りながら改札機にカードをタッチするのも至難の技だ。
電車も時々押しつぶされそうなくらいに込んでいる。
手すりを探すのも一苦労だ。
幸いに体力もあるしそれなりの移動技術もあるからできているのだと思う。
それでもちょっとしたサポートで助かるし安全度も高くなる。
烏丸御池の乗り換えで男性が声をかけてくださった。
声からして20歳台か30歳台かくらいだろう。
混雑の中で僕達は瞬時にお互いの行先などを確認して動き始めた。
僕は階段でもエスカレーターでもどちらでも大丈夫とかの情報も伝えた。
僕達は問題なく烏丸線のホームに到着した。
階段を昇って数十メートル、これだけでも助かる。
いつもは混雑時に電車に乗るのは緊張する。
降りる人がいつ終わったかを微かな音で判断しなければいけないからだ。
彼が一緒だったのでそこも不安なく対応できた。
電車に乗り込むとすぐに彼が僕に伝えた。
「席を譲ってくださるみたいですが、座りますか?」
僕はありがとうございますと口に出しながら喜んで座った。
席を譲ってくださる確率は単独移動の時よりサポーターと一緒の時の方がはるかに高
いから不思議だ。
見える人同士はコミュニケーションを取りやすいということだろう。
その後驚いた。
彼は譲ってくださった人に再度丁寧にお礼を言ってくださった。
彼はついさっき僕と出会ったばかりで、まさに赤の他人だ。
しみじみとうれしさが込み上げてきた。
やがて電車は十条に到着した。
「僕はここで降ります。ドアは5歩くらい先の左です。」
「ありがとうございました。助かりました。」
僕はありがとうカードを渡した。
彼は右手で軽く僕の肩に手を添え、
「良い一日を。」と言って降りていかれた。
たった7文字の言葉をとても爽やかに感じた。
帰宅したら20時を過ぎていた。
専門学校と大学での90分ずつの講義、友人とのランチ、学生との懇談、乗り換えた
交通機関は11、歩数は1万3千歩を超えていた。
充実した一日だった。
そして、爽やかな言葉が僕の良い一日をアシストしてくれたのは間違いないとしみじ
みと思った。
(2024年4月26日)