半月

京都ライトハウスの中途失明者生活訓練を終了した人達の同窓会に参加した。
「風になってください2」をボランティアの方々が朗読してくださり、
それを聞いて、感想や共感の声が、仲間から届けられた。
僕の日常が、僕だけのものではないこと、
僕のさみしさが、僕だけのものではないこと、
僕の喜びが、僕だけのものではないこと、
また教えてもらったような気になった。
ひょっとしたら、たくさんの仲間との関わりの中で、
僕は、書かせていただいているのかもしれないとさえ思った。
そして、とても光栄なことだと思った。
僕達は目は見えなくても、
それぞれが、それぞれの人生を、自分らしく生きていくことが、
僕達の使命なんだと確認した。
同窓会を終えて、さわさわへ向かった。
結局、帰りはまた夜になった。
桂から、僕は、バスをあきらめて、タクシーに乗車した。
乗り込んだ瞬間、僕は身体も気持ちも座席にころがした。
ちょっと疲れてるなと自覚した。
スケジュールからすれば無理もない。
運転手さんは、とても丁寧な感じで、
車が左右にカーブする時、交差点を渡る時、
わざわざ口頭で予告してくださった。
通り名までも伝えてくださった。
僕は小さな声で、相槌だけうっていた。
ひょっとしたら、僕の表情など、観察しておられたのかもしれない。
タクシーが、団地に向かう急な上り坂を走り始めた時、
運転手さんは、安全などとは無関係なことを元気な声で説明してくださった。
「まっぷたつに割ったような、大きなきれいな半月が窓いっぱいに映っています。」
僕の身体は、勝手に起き上がり、
前方の窓ガラスを見つめた。
「綺麗ですか?」
僕は尋ねた。
「とっても綺麗ですよ。」
運転手さんは、また元気な声で答えてくださった。
タクシーが団地に着いて、
清算を済ませて降りる際、
「月、ありがとうございました。」
僕はお礼を言った。
「頑張ってくださいね。」
運転手さんは笑った。
僕をご存知なのかなと、一瞬思ったが、
そんなことはどうでもいいことだと気づいて、
僕は深く頭を下げた。
明日は、中学校で5時間の授業が待っている。
その後、何かの打ち合わせも入っていたかな。
僕は、僕の使命、しっかりと頑張らなくちゃ。
(2013年6月16日)