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コオロギ日誌

僕が飛び乗ったおっちゃんは、
白い杖を持って、リュックサックを背負って、サングラスをかけていた。
ちょっと変な格好だった。
普通の人間は僕に気づくとすぐに振り払ったり捕まえたりするのに、
おっちゃんは無頓着だった。
おっちゃんは、僕のことなど気にせずに、
白い杖で道を確かめながら歩いていた。
そして、ライトハウスという建物の地下に入った。
そこにはおっちゃんと同じように、
白い杖を持った人間が何人もいた。
フェニックスの会議だと言っていた。
その人達も、僕を捕まえたりはしなかったし、
まるで無視しているようだった。
会議の前に、それぞれの参加者が、
近況報告を話し始めた。
みんな笑顔で話していた。
みんな幸せそうだった。
フェニックスが何なのか判らないけれど、
不思議な絆を感じた。
それからの会議は、
みんなが一生懸命話していた。
会議の後には、忘年会の日取りも決めていた。
僕が飛び乗ったおっちゃんは、
「その日、空いていたかなぁ。」
小声でつぶやいた。
その時、白い杖を持っていない別のおっちゃんが近づいてきた。
「松永さん、服にコオロギがいますよ。」
そのおっちゃんは、僕を捕まえて、
外に放り出した。
それにしても、僕が飛び乗っていたおっちゃんは、
僕の存在に最後まで気づかなかったということは、
よっぽどの鈍感なんだなぁと思った。
帰ったら、仲間に教えてあげよう。
飛び乗る時は、白い杖を持った人間を選べばいいよって。
みんな鈍感だし、やさしそうだからって。
(2013年9月5日)