フォークとナイフ

ホテルでの講演会、
参加者の皆さんと食事を一緒にいただいてからというスケジュールだった。
ウエイターさんが、器にスープを入れにこられた。
一瞬、お箸をもらっておこうかなと思ったけど、
何とかなるだろうと判断した。
この判断が間違っていた。
久しぶりのフォークとナイフ、
そして、僕より年上のいわゆる名士の方々の中での盲人一人、
それなりの緊張感も手伝って、
こぼさないようにとの気持ちだけで格闘が始まった。
スープは、味わいながらおいしく頂いた。
余裕があったのは、ここまでだった。
ステーキを切るのも、それを口に運ぶのも大変だった。
サラダは別の小皿だったので、
小皿を口に近づけて、フォークでかきこんだ。
温野菜には、春を感じさせる竹の子などが並んでいたようだったが、
それをフォークにさすことだけでも四苦八苦した。
極めつけは、伊勢えびを半分にカットしたものだった。
フォークで、どこをどうさしても、
殻がついてきて、なかなか身に辿り着けなかった。
僕はギブアップして、
「手を使います。」と宣言して、
片手で殻をつかんでトライしたが、
やはり難しかった。
結局、あきらめた。
最後に、隣の紳士が、
ポテトサラダをスプーンに入れてくださった。
これはおいしく頂けた。
一瞬、ほっとした瞬間だった。
デザートとコーヒーは問題なかった。
コーヒーをすすりながら、
外国の盲人はどうやって食事しているのだろうかと思った。
お箸は、結構小回りが効く。
手への触覚も伝わりやすい。
日常は、お箸ではほとんど不自由なく食事している。
やはり、慣れた道具が一番かな。
皆様、今度、目を閉じてフォークとナイフを使ってみてください。
本当に難しいですよ。
ちなみに、こんなにこだわっているのは、
視覚障害がどうのこうのということではありません。
あの久しぶりの伊勢えびを食べ損なった後悔が、
講演が終了してホテルを出てからも、
ずっと追いかけてきたのです。
それにしても、やっぱり悔しいなぁ!
(2014年2月4日)