Make a difference

今年から、祇園祭が先祭りと後祭りに分かれて開催されることになった。
1100年の祇園祭の歴史からすれば、
49年前に交通事情で一緒に開催するようになったのを、
また元に戻したというささやかなことになるらしい。
今日は後祭りの山鉾巡行の日、多くの観光客が予想された。
僕はブレスレットをつけて、気合を入れて家を出た。
このブレスレットは先日会ったカナダの友人がプレゼントしてくれたもので、
真っ青な色のシリコンの生地に、
「Make a difference」
と英語の点字で書いてある。
半そでの腕に、真っ青なブレスレット、
それで白杖を振って歩くのだから、少しは目立つのかもしれない。
オッサンがつけるには気恥ずかしいものなのかもしれないが、
そこは自分で鏡を見ることができない強みとも言える。
ブレスレットの右手にしっかりと白杖を持って出かけた。
案の定、桂駅から乗車した特急電車は、
平日のお昼前、しかも夏休みというのにとても込んでいた。
僕は電車に乗車すると、
ドアの入口に立って捕まる手すりを探した。
その時、僕の手が誰かに触れた。
僕が小声で「すみません。」と言うのと、
彼女が「どうぞ。」と言ってくれるのが同時だった。
僕は安心して、手すりを持った。
僕達の間にいくつかの会話が流れた。
同じ烏丸駅で降りることが判った彼女は、改札口までのサポートを申し出てくれた。
勿論僕は喜んでお願いした。
烏丸駅の改札口に着くと、
彼女は僕の向かう四条駅の改札口までのサポートの延長を提案してくれた。
それくらい、烏丸駅は凄い数の人だった。
「子供が急に横切りました。」
僕を手引きしてゆっくり歩きながら、彼女は幾度か立ち止まった。
「人の動きが、縦横無尽な動きです。」
的を得た表現だった。
改札に着いて僕は感謝を伝えた。
「こんな日のサポートの声は、まさに天使です。ありがとうございました。」
「お気をつけて。」
天使が微笑んだ。
彼女と別れて歩きながら、僕はそっと心の中でつぶやいた。
「Make a difference」
(2014年7月25日)