セミ

今日は、すれ違う人の足に白杖が幾度もぶつかった。
白杖のグリップを右手で持ち、
おへその前で左右に振る。
いつもと同じくらいの角度で持って、
いつもと同じくらいのスピードで歩いているつもりなんだけど、
たまにそんな日がある。
そんな日は自分でなんとなく判るので、
いつもより慎重に、注意力を高めて歩く。
一日の仕事を終えて無事地元に帰り着き、
スーパーマーケットで買い物をすませて、団地の中の道を帰路に着く。
やっとちょっとのんびりした気分になる。
ふと、セミの声の変化に気づいた。
音色なのか音程の高さなのかは判らないけれど、
夏の始まりに感じた勢いではなくて、
夏が終わり始めているさみしさみたいなものが感じられた。
僕はわざとゆっくり歩いた。
夏が終わりに近づいているということは、
秋の扉が少し開き始めたのだろう。
小さい秋、いっぱい見つけたいな。
セミの短い一生に思いを寄せながら、
自分の人生の秋を自覚しながら、
今日も無事に帰ってこれたことにただ感謝する。
(2014年8月20日)