ささやかな運の話

バスを乗り継いでJR桂川駅へ着いたのは、
滋賀県の大津駅での待ち合わせ時間の30分前だった。
駅員さんにサポートを頼めば、
駅員さん同士の連絡などで10分程度のロスタイムが発生する。
大津駅までは所要15分程度なので立っていても疲れるほどの時間でもないし、
乗り換えもないので自分で行くことにした。
大津駅の構造は知らないので、
到着後に近くの足音に向かって改札口などを尋ねなければいけない。
そこからは運もある。
ホームのアナウンスを聞きながら電車を待つ。
電車が到着したらドアの開く音を探す。
それが確認できたら白杖を使って乗降口を確認して乗車する。
何も見えない状態でこの動作をスムーズにやってのけるのだから、
訓練の力は大きい。
自分で自分に凄いと思ってしまうくらいだ。
入口の手すりを持ちながら約15分、電車が大津駅に着いた。
電車とホームの溝を白杖で確認して降りる。
予定通り、ここからが難関だ。
右へ行けばいいのか左へ行けばいいのか何も判らない。
勝手に動き回るのは危険だ。
誰かの足音に尋ねようと準備した瞬間、
「肘を持ってください。一緒に行きましょう。」
声をかけてくださったのは大阪から来られたというご婦人二人組だった。
知り合いに全盲の女性がいるという彼女達はとても自然に当たり前のように声をかけ
てくださり、
改札口までサポートしてくださった。
僕は余裕で待ち合わせ時間に間に合い、
講演会場へ向かった。
視能訓練士を目指す学生達対象の講演だった。
障害を正しく理解するということがどんなに大切かを学生達に話した。
正しく知れば、人は助け合うことができる生き物なのだ。
講演の最中、さっきの大阪のご婦人達を思い出した。
運が良かったなと思った。
帰りに友人と会い食事をした。
お店を出て少し歩いたところで、
友人が星がとても綺麗に輝いていることを教えてくれた。
僕は夜空を見上げた。
やっぱり今日は運がい一日だったなと思った。
(2015年8月18日)